【2026年最新版】「おとり求人」とは?
~求人票と実際の労働条件の相違トラブルを防ぐ実務手順を社労士が解説~
「新入社員から『求人票に書いてあった給料と実際の支給額が違う。』と不満が出て、現場が混乱していませんか?」「経営者や人事労務担当者として、求人サイトの魅力的な記載と、実際の労働条件のズレにどう対応すべきか、頭を抱えている方も多いでしょう。」
「応募者を集めるために、少しでも条件を良く見せたい」という軽い気持ちが、後々企業経営を揺るがす取り返しのつかない事態を招きます。
結論から申し上げますと、この問題を解決し会社を守るには「職業安定法・労働基準法に完全準拠した求人票の作成と、入社前の『労働条件明示・合意プロセス』の徹底」が不可欠です。
本記事では、多くの企業で採用に関わる労務トラブルを未然に防いできた社会保険労務士が、「おとり求人(虚偽求人)」の厳格な法的根拠から、実務で明日から使える運用フローまでを論理的に徹底解説します。
この記事を読めば、法的な罰則リスクを完全に回避し、企業ブランドを守りながら「求職者に選ばれる誠実な採用活動」ができるようになります。

【目次】
第1章[問題提起]なぜ今、企業で「求人票と労働条件の相違」が最重要課題なのか?
- 1-1.[背景]職業安定法の改正と「おとり求人」への厳罰化
- 1-2.[リスク]放置した場合の「ブラック企業認定」と罰則リスク
第2章[法的根拠]「求人票の記載内容」における法律と判例の論理的解釈
- 2-1. 関連する法律(職業安定法及び労基法第15条の解説)
- 2-2. 重要な判例の紹介(求人票がそのまま契約になる恐怖)
第3章[実務対応]明日から実践!企業がとるべき具体的な3つのステップ
- 3-1. 現状の把握と就業規則・求人票の整合性確認
- 3-2.[書式/フォーマット]労働条件通知書(雇用契約書)の精緻化
第4章[深掘り・ニッチ]意外と知られていない「特殊ケース」の落とし穴
- 4-1.[例外的な事例]中途採用の「職種限定契約(ジョブ型)」への対応
- 4-2. 専門家でも判断が分かれる「試用期間」のグレーゾーン
第1章[問題提起]なぜ今、企業で「求人票と労働条件の相違」が最重要課題なのか?
1-1.[背景]職業安定法の改正と「おとり求人」への厳罰化
まずは背景を整理します。近年、求人サイトやハローワークの普及により、企業と求職者のマッチングが容易になりました。しかし、同時に「嘘の好条件」で求職者を釣る「おとり求人(虚偽求人)」が深刻な社会問題化しています。
政府もこれを極めて重く見ており、職業安定法の改正によって、求人条件の明示ルールは年々厳格化されています。さらに2024年4月からは、すべての企業に対し「就業場所・業務の『変更の範囲』の明示」が新たに義務化されるなど、情報開示のハードルは劇的に上がっています。
かつて許容されていた「求人票の給与はあくまで目安だ」「細かい条件は面接で適当にすり合わせればよい」という昭和・平成の採用常識は、コンプライアンスが重視される令和の現在では全く通用しません。
1-2.[リスク]放置した場合の「ブラック企業認定」と罰則リスク
この「条件のズレ」を放置したまま採用を強行すると、以下のような企業存続に関わる深刻な経営リスクが生じます。
1 法的・行政リスク(懲役・罰金と求人停止)
職業安定法違反として労働局からの指導や是正勧告を受けます。
虚偽の条件を意図的に提示した場合、最悪のケースでは「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という刑事罰が科せられます。当然、ハローワークや民間求人媒体の利用も停止されます。
2 組織・経済的リスク(早期離職と損害賠償)
「騙された」と感じた新入社員は早期に離職します。
採用・教育にかけたコストが水泡に帰すだけでなく、「求人票の給与との差額を支払え」と未払い賃金として訴えられるリスクがあります。
3 レピュテーションリスク(採用ブランドの崩壊)
SNSや企業の口コミサイトで「求人票で嘘をつくブラック企業」として情報が瞬時に拡散され、今後の採用活動が事実上不可能になります。
【社労士の視点:トラブルは入社後に爆発する】
多くの経営者の方が、「面接でなんとなく伝えたし、入社後にしっかりフォローすれば大丈夫」と考えがちです。
しかし、トラブルは「初任給が振り込まれた直後」という予期せぬタイミングで、労働基準監督署への駆け込みや弁護士からの内容証明という形で一気に火を噴きます。「言った、言わない」の言い訳は通用しません。

第2章[法的根拠]「求人票の記載内容」における法律と判例の論理的解釈
2-1. 関連する法律(職業安定法及び労基法第15条の解説)
法的にはどのように判断されるのでしょうか。求人票と実際の労働条件については、主に「職業安定法第5条の3」と「労働基準法第15条」で厳格に定められています。
【引用:職業安定法 第5条の3(労働条件等の明示)】
「公共職業安定所、職業紹介事業者及び求人者は、求職者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」
【労働基準法 第15条(労働条件の明示)】
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を「書面で」明示しなければなりません(※2024年4月からは、将来の配置転換を見据えた「就業場所・業務の変更の範囲」の明示も必須となっています)。
さらに職業安定法では、当初求人票で明示した労働条件を「面接の過程等で変更する場合」、あるいは「求人票より低い条件で内定を出す場合」は、変更内容を求職者に対し、「原則として書面(本人が希望すればメール等も可)」で示さなければならないという「変更明示義務」が課せられています。口頭だけでは法律違反となります。
2-2. 重要な判例の紹介(求人票がそのまま契約になる恐怖)
「求人票は単なる広告だし、最終的に実際の契約書にサインさせれば問題ないだろう。」という考えは非常に危険です。
過去の著名な判例(千代田ブライダルハウス事件:大阪高裁平成29年)において、裁判所は経営者を震え上がらせる判断を下しています。
この裁判は、求人票に「基本給25万円〜」と記載されていたにもかかわらず、実際には基本給18万円等で採用された労働者が、求人票どおりの賃金(差額)を請求した事件です。
判断基準🅰️:特段の合意が明確であったか
裁判所は、求人票はあくまで「契約の誘引(広告)」であるとしつつも、面接等で、労働条件について「特段の合意(求人票とは別の低い条件で働くという明確な合意)」がない限り、求人票の記載がそのまま労働契約の内容となると判断しました。
判断基準🅱️:契約書にサインしていても「説明なき合意」は無効
この事件の最大のポイントは、「労働者が(低い給与が書かれた)雇用契約書にサイン・押印していたにもかかわらず、会社側からの明確な説明がなかったため、真の同意があったとは認められない」と判断された点です。
結果、会社は求人票どおりの差額支払いを命じられました。
つまり、会社側が「面接で条件変更について論理的・客観的に説明し、本人の明確な同意を書面で得た」という証拠がない限り、「契約書にサインさせた」という事実すら覆り、求人票の高い条件で縛られる(支払う義務が生じる)のです。

第3章[実務対応]明日から実践!企業がとるべき具体的な3つのステップ
ここからは、明日から実践できる、求人トラブルを完全に防ぐ具体的な採用実務の手順を解説します。
3-1. 現状の把握と就業規則・求人票の整合性確認
まずは現在出しているすべての求人票(ハローワーク、Web媒体、自社サイト)と、自社の就業規則(賃金規程・労働時間規程)を見比べ、矛盾がないか点検してください。
✅ チェックポイント1:賃金と手当の整合性
求人票の「基本給」や「手当」の金額・名称が、自社の給与テーブルと完全に一致しているか。「みなし残業代」を含めて基本給を高く見せていないか。
✅ チェックポイント2:労働時間と休日の実態
「年間休日120日」「残業月平均10時間」といった記載が、過去の実態や現在の36協定の範囲内と矛盾していないか(誇大広告になっていないか。)。
✅ チェックポイント3:変更の範囲の明示(2024年対応)
「将来的に転勤の可能性があるか」「別の業務に異動する可能性があるか」が求人票の段階で明記されているか。
3-2.[書式/フォーマット]労働条件通知書(雇用契約書)の精緻化
口頭での「求人票とは少し条件が違うけど、頑張り次第で上がるからよろしく」というやり取りは最悪の悪手です。
必ず書面で明示し、証拠を残しましょう。
【実務上のポイント】
内定時に交付する「労働条件通知書 兼 雇用契約書」には、必須記載事項を網羅するだけでなく、求職者が納得する工夫が必要です。求人票の段階から条件が変更になった場合(例:経験不足のため、求人票の下限額より低い給与を提示する場合など)は、別紙で「変更明示書」を添えるか、契約書内で変更箇所をハイライトするなど、「どこが変わったのか」を一目でわかるよう明示する義務があります。
3-3. 面談・プロセス(条件変更時の書面による同意取得)
面接を通じて、応募者のスキルが求人票の想定要件に満たず、条件を下げて採用したい(あるいは試用期間を設けたい)場合は、決して内定通知書で騙し討ちにしてはいけません。
以下のフローで誠実に進めます。
1 事実の確認
最終面接やオファー面談の場で、求人票で求めていたスキルと、現在の応募者のスキルのギャップを客観的に提示する。
2 変更の理由説明
「そのため、今回は求人票の提示額とは異なり、この等級(賃金)での採用となる」旨を丁寧に説明する。
3 同意の取得
内定通知とともに変更後の労働条件を書面で提示し、その場で無理にサインさせず、入社を承諾するかどうかの検討期間(数日〜1週間)を与える。
※【注意】やってはいけないNGな求人記載
求人票を作成する際、アクセスを集めたいがためにやってはいけない「違法な表現」があります。
❌[NG例1]基本給に「固定残業代」を隠して高く見せる
「月給30万円」と書きながら、実はその中に「80時間分の固定残業代」が含まれているような記載は違法です。
固定残業代を導入している場合は、①基本給の額、②固定残業代の額とそれに相当する時間数、③固定残業時間を超えた場合は別途割増賃金を支払う旨、の3点セットを必ず明記しなければなりません。
❌[NG例2]実態のない「最大〇〇万円可能」という記載
トップの営業マンでも達成していない架空のインセンティブや年収例を記載することは、明らかな「虚偽広告」となり、労働局の指導対象となります。

第4章[深掘り・ニッチ]意外と知られていない「特殊ケース」の落とし穴
4-1.[例外的な事例]入社直前の業績悪化による条件引き下げ
一般的な採用フローに加え、実務で深刻なトラブルになるのが「内定出しから入社までの間に、会社の業績が急悪化し、条件を下げざるを得ない場合」です。
例えば、内定時には月給30万円で合意していたが、入社直前に「業績悪化のため、申し訳ないが月給25万円で入社してほしい。」と打診するケースです。内定を出して承諾を得た時点で、法的にはすでに「労働契約が成立」したとみなされます。したがって、会社からの一方的な条件引き下げは「労働契約法第8条違反(不利益変更)」となり無効です。
このような場合、通常の運用とは異なり、内定者との間で「自由な意思に基づく明確な同意(合意書の締結)」を得るための、極めて高度で誠実な交渉が必要となります。同意が得られなければ、内定時の条件で雇い入れるか、合意退職(解決金の支払い等)に向けた交渉をせざるを得ません。
4-2. 専門家でも判断が分かれる「試用期間」のグレーゾーン
求人票において非常に判断が難しく、画一的な答えがないのが「試用期間中の条件変更」の記載方法です。
「試用期間は3か月。期間中の労働条件は本採用時と同じ。」と求人に記載しながら、実際に入社してみると「試用期間中は各種手当(家族手当や住宅手当)を支給しない。」という運用をしているケースが後を絶ちません。
だからこそ、個別の求人ごとに「試用期間中の正確な賃金・待遇(合理性)」と「その記載の分かりやすさ(相当性)」を慎重に検討する必要があります。「委細面談」「詳細は入社時に説明」といった曖昧な記載でごまかすことは、現在では行政指導の対象となり、一切通用しません。

まとめ・・・採用活動は「正しい情報開示」と「初動」が9割
本記事の要点まとめ
1 経営リスク
職業安定法等の改正により、おとり求人(虚偽記載)や条件の相違に対する罰則・レピュテーションリスクは劇的に高まっている。
2 法的解釈
千代田ブライダルハウス事件の判例が示すとおり、明確な説明・合意がなければ「契約書にサインがあっても求人票の記載が優先される。」という厳しい現実がある。
3 防衛策
面接等で条件を変更する場合は、入社前の「書面による変更明示」と「本人の同意取得」が会社を守る最大の武器になる。
クロージング(Next Step)
求人票と実際の労働条件の相違に関する問題は、入社後に発覚して労働基準監督署に駆け込まれてからでは、解決に膨大なコストと時間がかかります。企業の採用ブランドが地に落ちれば、人手不足の時代を生き残ることはできません。
「転ばぬ先の杖」として、求人を出す前の原稿チェックと、採用フロー全体の適法化を強くお勧めします。
当事務所では、御社の実情に合わせた求人票のリーガルチェック(法改正対応)や、法的に安全な「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の作成、面接から内定に至るまでの採用実務フローの構築をワンストップでサポートしております。
- 「自社の求人票の書き方(固定残業代の表記など)は、今の法律に違反していないか?」
- 「内定者に条件変更を納得してもらうための、正しい書面の作り方が分からない。」
と少しでも不安を感じられた経営者の方・人事労務担当者の方は、トラブルが起きて手遅れになる前に、ぜひ一度、当事務所の無料相談をご活用ください。


お問い合わせ
ご依頼及び業務内容へのご質問などお気軽にお問い合わせください


