令和7年改正育児・介護休業法のポイント(介護休業編)

~企業が押さえるべき実務対応と社会保険労務士の視点からのアドバイス~

1.はじめに

近年、企業経営において「人材の確保と定着」は最重要課題の一つとなっており、その背景には、少子高齢化の進展に伴う労働力人口の減少があります。とりわけ、働きながら家族の介護を担う従業員が増加する中で、「介護離職」をいかに防止するかは、企業にとって避けて通れないテーマです。

令和7年に施行される育児・介護休業法の改正は、正にこの「介護離職防止」を強く意識した内容となっており、企業に対して新たな雇用環境整備の取組みが求められることになりました。
今回の記事では、この法改正の概要とポイントを整理し、企業がどのような実務対応を行うべきかを、社会保険労務士の視点から分かりやすく解説します。本記事を読むことで、法改正への理解が深まり、自社のリスクを回避すると同時に、従業員の働きやすい職場づくりへとつなげていただきたいと思います。

2.背景・問題提起

日本は急速な高齢化社会を迎えており、総務省の統計によると、65歳以上の人口は全体の約3割に達しています。これに伴い、介護を必要とする高齢者も増加の一途をたどっており、厚生労働省の推計では、要介護認定者数は今後さらに増えると見込まれています。

このような社会状況の中で問題となっているのが、「介護離職」です。家族の介護を理由に仕事を辞めざるを得ない労働者は、毎年約10万人にのぼるとされており、その多くは中堅社員層で、企業にとって貴重な戦力を失うことにつながっています。特に、中小企業では人材の代替が難しく、介護離職による経営への影響は大きいでしょう。

これまで育児・介護休業法は、介護休業や介護休暇の取得制度を整備してきましたが、「制度があっても実際には利用しにくい。」「休業に入る前の相談環境が整っていない。」といった声が根強くありました。そのため、制度の存在だけでは十分な効果を発揮できず、介護離職を防ぐ実効性のある仕組みづくりが課題となっていました。

こうした背景を踏まえ、令和7年改正では「介護離職を防ぐための雇用環境整備」が明確に法的義務として位置づけられました。これは単なる制度拡充にとどまらず、企業文化や職場風土の変革を迫る内容となっています。

3.改正・制度のポイント

(1)改正の柱

令和7年4月1日施行の改正育児・介護休業法の介護分野における最大のポイントは、「介護離職防止のための雇用環境整備」が企業に義務づけられた点です。
これにより、企業は単に休業制度を設けるだけではなく、従業員が介護と仕事を両立できるよう、積極的に働きかける責任を負うことになりました。

(2)雇用環境整備の具体的内容

① 介護休暇を取得できる労働者の要件緩和(労使協定を締結している場合は就業規則等の見直し必要)

改正内容施行前施行後
労使協定による継続雇用期間6か月未満除外規定の廃止〈除外できる労働者〉
Ⅰ 週所定労働日数が2日以下
〈除外できる労働者〉
Ⅰ 週の所定労働日数が2日以下
Ⅱ 継続雇用期間6か月未満※Ⅱを撤廃

② 介護離職防止のための雇用環境整備(義務)
介護休業や介護両立支援制度等 ※ の申出が円滑に行われるようにするため、企業は次のⅠ~Ⅳのいずれかの措置を講じる必要があります。
Ⅰ 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
Ⅱ 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
Ⅲ 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
Ⅳ 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知

※ⅰ介護休暇に関する制度 ⅱ所定外労働の制限に関する制度 ⅲ時間外労働の制限に関する制度 ⅳ深夜業の制限に関する制度 ⅴ介護のための所定労働時間の短縮等の措置

③ 介護離職防止のための個別の周知・意向確認等(義務)
Ⅰ 介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する以下の事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行う必要があります。

周知事項ⅰ介護休業に関する制度、介護両立支援制度等
ⅱ介護休業・介護両立支援制度等の申出先
ⅲ介護休業給付金に関すること
個別周知・意向確認の方法ⅰ面談(オンライン面談可)
ⅱ書面交付
ⅲFAX(労働者が希望した場合)
ⅳ電子メール等(労働者が希望した場合)のいずれか

Ⅱ 介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供労働者が介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を深めるため、企業は介護休業制度等に関する以下の事項について情報提供しなければなりません。

情報提供期間ⅰ労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)
ⅱ労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間
 のいずれか
情報提供事項ⅰ介護休業に関する制度、介護両立支援制度等
ⅱ介護休業・介護両立支援制度等の申出先
ⅲ介護休業給付金に関すること
情報提供の方法ⅰ面談(オンライン面談可)
ⅱ書面交付
ⅲFAX
ⅳ電子メール等
  のいずれか

④ 介護のためのテレワーク導入(努力義務)
要介護状態の対象家族を介護する労働者テレワークを選択できるように措置を講ずることが、企業に努力義務化されます。

(3)企業が理解すべき3つの要点

・「制度を作る」から「制度を使わせる」への転換
   単なる制度整備ではなく、利用しやすい環境づくりが重要です。
・「相談の場」が介護離職防止のカギ
   早期相談・情報共有があれば、離職を回避できるケースが多くあります。
・「多様な働き方」との連動
   テレワークや短時間勤務など、既存の制度を組み合わせて対応する柔軟性が求められます。

このように、改正の本質は「企業文化の変革」にあり、単なる法令遵守を超えた取組みが必要とされます。

4.企業実務への影響

法改正により、企業は就業規則や社内規程の改定を余儀なくされます。

具体的には、介護休業や短時間勤務制度の利用条件や申請手続きを明確に記載するとともに、相談窓口の設置や情報提供の方法についても就業規則等に盛り込む必要があります。

さらに、労使協定の見直しも重要です。例えば、介護休暇を時間単位で取得できるかどうかは労使協定により定める必要があり、柔軟な働き方を導入する上で労使間の合意形成が不可欠です。
また、管理職や人事担当者への教育も欠かせません。現場の上司が介護と仕事の両立に理解を示さなければ、制度は形骸化してしまいます。
パワハラや差別的な対応を防ぐ観点からも、コンプライアンス教育を徹底することが重要です。

未対応のままでは、行政指導や企業イメージの低下といったリスクに直結します。
特に昨今は「働きやすさ」を重視する人材が多く、介護離職を防ぐ仕組みを整えているかどうかは採用競争力にも直結します。
企業にとって法改正対応は、単なるコストではなく人材確保のための投資であると捉える必要があります。

5.社労士からのアドバイス

多くの企業で見られる課題は、「制度はあるが、従業員が使いづらい」という点です。特に介護は突発的に始まるケースが多いため、早期の情報共有と柔軟な対応がカギとなります。

私の実務経験では、「上司に相談しづらい」「制度を使うと評価に響くのでは」という不安が、制度利用を妨げる大きな要因になっていました。そのため、企業はまず「相談しやすい風土」を作ることが何より重要です。

また、中小企業の場合、人事担当者が少なく、法改正対応が後手に回りがちです。
その場合は、社会保険労務士など外部専門家を活用し、効率的に対応を進めることをお勧めします。

Geborgenheit(ゲボーゲンハイト)社会保険労務士事務所でも、就業規則改定から社内研修、相談体制構築まで、トータルでの支援が可能です。

6.おわりに

令和7年改正育児・介護休業法は、「介護離職防止」を強く打ち出した改正です。
企業には、制度の整備に加え、従業員が安心して利用できる雇用環境の構築が求められます。
ポイントは、
・制度を「使えるもの」にすること
・相談窓口を設け、早期対応を可能にすること
・柔軟な働き方を組み合わせること
の3点です。

今すぐに取り組むべき最初のアクションは、自社の現状を把握することです。
従業員の介護ニーズや制度の利用実態を調査し、改正内容とのギャップを明確にすることから始めましょう。
介護離職を防ぐ取組みは、企業の持続的な成長と従業員の安心を両立させる鍵となります。

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