令和7年改正育児・介護休業法のポイント(育児休業編)

~企業が押さえるべき実務対応と社会保険労務士の視点からのアドバイス~

1.はじめに

令和7年(2025年)、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下、「育児・介護休業法」という。)が大きく改正されています。
今回の改正は、これまで以上に「従業員の仕事と育児の両立」を重視した内容となっており、企業経営や労務管理に直接的な影響を及ぼすものです。

特に注目されるのは、「子の看護等休暇の見直し」「所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大」「短時間勤務制度の代替措置へのテレワーク追加」など、既存制度の拡充に加え、「育児のためのテレワーク導入」「育児休業取得状況の公表義務拡大」「個別意向聴取義務」といった、企業の制度運用や情報公開に直結する新しい仕組みです。

対応を怠ると、行政指導や訴訟リスクだけではなく、従業員から「働きにくい職場」と見なされ、優秀な人材が流出する恐れがあります。一方で、法改正をきっかけに制度を整えれば、「従業員が安心して働ける環境づくり」が進み、人材定着や採用面での強みとなります。

本記事では、社会保険労務士の視点から改正の背景・具体的な改正ポイント・企業実務への影響・実務的なアドバイスを詳しく解説します。
経営者や人事担当者の方にとって、今後の対応に直結する内容です。

2.背景・問題提起

(1) 深刻化する少子化と人材確保の課題

日本の出生数は、令和6年に過去最低の約68.6万人まで落ち込みました。労働力人口の減少が加速する中、企業は「限られた人材をいかに確保し、いかに長く定着してもらうか」が最大の経営課題となっています。
育児期の従業員が安心して働き続けられる環境が整っていなければ、退職や離職を招き、採用コストや教育コストが増大します。

(2) 政府の施策と社会的な要請

政府は「こども未来戦略方針」に基づき、育児休業制度の拡充や働き方改革を推進しています。特に「男性育休の取得促進」「柔軟な働き方の普及」「企業の取り組みの見える化」が強調され、社会全体で育児と仕事の両立を支援する流れが強まっています。
企業の対応は、もはや法令遵守の枠を超え、社会的責任(CSR)や企業価値の向上と密接に結びつくものとなりました。

(3) 現場で浮き彫りになる課題

現場の企業からは次のような課題が寄せられています。
・ 制度はあるが利用実績が少ない。
・ 休業取得による業務のしわ寄せをどう吸収するかが課題となっている。
・ テレワークを導入したいが、評価方法や情報管理が整っていない。
・ 制度利用者とそうでない従業員の間で不公平感が生まれる。

こうした課題に対応するため、令和7年改正では、従来の制度の拡充に加え「柔軟な働き方」や「個別の意向聴取」といった仕組みが導入され、より実効性のある制度設計が求められることとなりました。

3.改正・制度のポイント

令和7年改正育児・介護休業法のうち、育児休業関連の主な改正点は以下の7つです。
施行時期別に整理してみましょう。

【令和7年4月1日施行】

子の看護等休暇の見直し(義務)

子の看護等休暇の見直しについては、下記の表のとおりです。

改正内容施行前施行後
対象となる子の範囲の拡大小学校就学の始期に達するまで小学校3年生修了まで
取得事由の拡大①病気・けが
②予防接種・健康診断
①病気・けが
②予防接種・健康診断
③感染症に伴う学級閉鎖等
④入園(入学)式・卒園式
労使協定による継続雇用期間6か月未満
除外規定の廃止
〈制度利用を除外できる労働者〉
①週の所定労働日数が2日以下
②継続雇用期間6か月未満
〈制度利用を除外できる労働者〉
①週の所定労働日数が2日以下
 ※②撤廃
名称変更子の看護休暇子の看護休暇

所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大(義務)

これまで3歳未満の子を養育する労働者に限られていた「残業免除」が、小学校就学前の子を養育する労働者にまで拡大されました。

短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワーク追加(制度を採用する場合)

短時間勤務制度の代替措置として、これまで認められていた「育児休業に関する制度に準ずる措置」「始業時刻の変更等」に加えて、「テレワーク」が追加されました。

育児のためのテレワーク導入(努力義務)

3歳未満の子を養育する従業員に対し、テレワークを選択できるように措置を講ずる努力義務が事業主に課されました。

育児休業取得状況の公表義務拡大(義務)

従来は常時雇用労働者1,000人超の企業のみが義務付けられていた男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」が、300人超の企業にまで拡大されました。

【令和7年10月1日施行】

柔軟な働き方を実現するための措置(義務)

事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、次の5つから選択して講ずべき措置の中から、2つ以上の措置を選択して講ずる必要があります。また、労働者は、事業主が講じた措置の中から、1つを選択して利用できるようになります。
Ⅰ 始業時刻等の変更
Ⅱ テレワーク等(10日以上/月)
Ⅲ 保育施設の設置運営等
Ⅳ 終業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
Ⅴ 短時間勤務制度

仕事と育児の両立に関する個別意向聴取・配慮(義務)

事業主は、3歳未満の子を養育する従業員に対して、子が3歳になるまでの適切な時期に、個別に「どのような働き方を希望するか」「どの制度を利用したいか」など聴取し、その意向を踏まえて配慮する義務を負います。

4.企業実務への影響

令和7年改正の内容は、企業の労務管理に次のような影響を及ぼします。

(1) 就業規則や社内規程の改定

子の看護等休暇の取得単位変更、残業免除の対象拡大、テレワークの導入努力義務など、規程への明文化が必要です。特に「短時間勤務制度の代替措置」としてテレワークを採用する場合には、在宅勤務規程の整備が不可欠となります。

(2) 労使協定の締結・見直し

制度運用に関わる部分では、労使協定の締結が必要となるケースも多くあります。
労働組合または労働者を代表する従業員との協議が増えるため、スムーズに協議を進める準備が求められます。

(3) 管理職・人事担当者の教育

個別意向聴取や柔軟な働き方の選択肢提示は、現場の管理職が対応する場面が増えます。
制度の趣旨を理解せず対応すると「形だけヒアリング」になりかねません。
教育研修を通じ、管理職に「部下のライフイベントに寄り添う姿勢」を浸透させることが重要です。

(4) コンプライアンス上のリスク

制度未整備や誤った対応は、行政指導や訴訟リスクに直結します。
また、育児休業取得率の公表義務違反は企業イメージの低下にもつながります。
特に採用市場において「子育て支援に消極的」と見なされれば、優秀な人材の確保が難しくなる可能性をはらんでいます。

5.社労士からのアドバイス

社会保険労務士として多くの企業を支援している中で感じるのは、「制度を整えているのに利用されない」という企業が非常に多いということです。
その背景には、制度を利用しづらい雰囲気や、管理職の理解不足が存在します。

今回の改正では、制度の有無だけではなく、「実際に利用できる環境づくり」が問われます。
企業にとっては、就業規則の改定や労使協定の締結といった形式的な対応だけではなく、管理職研修や従業員への周知、相談窓口の設置など、運用面の工夫が不可欠です。
また、「男性の育児休業等取得状況の公表義務」は、企業の姿勢を社会に示すものです。単に義務だから対応するのではなく、自社の魅力発信の一環として積極的に取り組むことが、人事採用や人材定着にプラスとなります。

当事務所では、規程の整備から労使協議のサポート、管理職研修の企画、運用上の相談対応まで、包括的な支援が可能です。
改正を「負担」としてではなく「人材戦略のチャンス」と捉え、ぜひ前向きに活用していただきたいと思います。

6.おわりに

令和7年の育児休業関連改正は、従業員の仕事と家庭の両立を支援するための重要な施策です。
特に、残業免除対象の拡大、テレワークの位置づけ強化、男性の取得率公表義務の拡大、個別意向聴取の義務化は、企業の実務に直接的な影響を与えます。

企業がまず取り組むべきは、自社の就業規則や制度を点検し、どの部分が改正に未対かを明確にすることです。
その上で、労使協議や規程整備を進め、従業員が実際に制度を活用しやすい環境を整える必要があります。

今回の改正は「企業の負担増」ではなく、「人材の定着と採用競争力向上」のチャンスです。
Geborgenheit(ゲボーゲンハイト)社会保険労務士事務所は、各企業が自社の実情に合った制度運用を実現できるよう、いつでもサポートいたします。

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