成果をあげるためには、その人間ができることを中心に据えて、異動を行い、昇進させなければならない。

(ピーター・ドラッカー)

今日の「ことば」について

ピーター・ドラッカーは「現代経営学の父」と呼ばれ、経営・組織・働き方に関する多くの洞察を残した人物です。
この「ことば」は、ドラッカーが一貫して説いた「強みを基軸とするマネジメント」の核心部分に位置づけられます。ドラッカーは、組織における成果は「弱点の克服」ではなく「強みの発揮」によって最大化されるとして、個人の特性や能力を活かす配置・昇進こそがマネジメントの本質であると強調しました。

この「ことば」の背景には、20世紀中盤のアメリカ企業における人事制度の画一性があります。
当時は年功序列的な昇進、部門の都合優先の異動が一般的でしたが、ドラッカーは「人が持つ固有の能力」を起点としなければ真の成果は生まれないと警鐘を鳴らしたのです。

表面的には、「人は得意な分野でこそ力を発揮するのだから、その強みが活きる配置をすべき」というシンプルなメッセージです。しかし実際には、組織文化、評価制度、マネジメントのあり方に深い影響を及ぼす重要な考え方であり、現代の人材活用にも通じる普遍性を持っています。

社会保険労務士としての解釈

この「ことば」は、社会保険労務士として人事労務の現場に関わる立場から見ると、極めて実務的な示唆を含んでいます。企業における労務トラブルの多くは、「人と仕事が適合していないこと」に起因することが少なくありません。能力に見合わない期待、労働条件と実態の乖離、不適切な配置によるストレス等、これらは、評価不満・パワハラ・メンタル不調などを引き起こす根本原因となります。

経営者目線で見ると、社員の強みを把握し、それを活かす配置や評価制度の構築は、企業生産性を高める最も基本的なマネジメントです。しかし、現場では「欠員が出たから補充する」「年次が来たから昇進させる」といった「組織側の都合」による人事が優先されがちです。このような運用を続けると、能力発揮の機会が阻害され、結果として生産性低下・退職率上昇につながります。

社会保険労務士としては、職務分析・適材適所の配置、評価制度の透明性確保、職務要件の明確化などを通じ、企業が「強みを軸にした人事」を実践できるよう支援する必要があると感じています。

一方、労働者目線では、「自分の強みを正確に把握し、それを活かせる働き方を選択する」という視点が重要になります。キャリア形成支援の現場では、得意な領域とやりたいことが合致しないケースも珍しくありません。そこで、労働者自身が強みを自覚し、スキル開発を計画的に進め、健康状態を維持しながら長期的に能力発揮できるキャリア形成が不可欠になります。

この双方を踏まえ、社会保険労務士としては、以下の点を経営者・従業員双方に助言できます。

・ 職務内容と期待される成果を明確化し、人材の強みと照合する「適材適所の仕組み」を制度として構築すること
・ キャリア面談、職務評価、スキルマップの導入など、「強みを可視化する仕組み」を整備すること
・ メンタルヘルスや健康管理の観点から、「能力発揮が継続できる労働環境」を整えること
・ 従業員自身にも、「強み分析やキャリアの棚卸し」を習慣化し、自己理解を深めることを促すこと

法的視点では、合理的な人事評価や能力に応じた人材配置は、労働契約法の「労働条件の明示」「配転における合理性・権利濫用防止」等とも深く関わります。

企業は法的安定性を保ちつつ、成果につながる人材マネジメントを行わなければなりません。

今日の「ことば」から学ぶ現場のヒント

日々の職場でこの「ことば」を活かすためには、まず「人の強みを正しく知る」ための仕組みとコミュニケーションが必要です。
管理職は、業務の出来不出来だけではなく、行動特性、理解の早さ、協調性、創造力等、多様な観点から部下の強みを観察し、それを日常的な対話で引き出す必要があります。
また、従業員側も、自分の得意分野や成果が上がった経験を言語化し、積極的に共有することが求められます。「強みを中心に据える」ためには、双方の情報交換が欠かせません。

組織運営上は、
・ 職務内容を明確にする「ジョブ型」要素の導入
・ スキルマップや評価基準の可視化
・ 定期的なキャリア面談
・ 配置転換のルール化
を行うことで、属人的な判断を減らし、適材適所を実現しやすくなります。

従業員にとっては、強みを理解することはメンタルヘルスにも好影響を与えます。

自分の強みが活かされていると実感できると、仕事への自信と充足感が高まり、生産性も向上するでしょう。

結語

ドラッカーの「ことば」は、単なる人材配置のテクニックではなく、「人が本来持つ力を最大限に発揮できる環境を整えることこそ、組織の成果に直結する」という普遍的な原則を示しています。

企業にとっては、強みを生かす人事こそが生産性向上の鍵であり、従業員にとっては、自身の強みを理解し伸ばすことがキャリア形成の基盤となります。

社会保険労務士として、私は、双方が互いの強みを尊重し、それを活かす仕組みづくりを支援することで、健全で持続可能な職場づくりに貢献したいと考えています。

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